車椅子の使い方について
車椅子というものは、歩行困難な方々の移動ツールとしては非常に便利なもの。
しかし、我々がよく間違えてしまうことは、車椅子を使って移動する方の、生活全てを車椅子に乗ったまま完結できると考えてしまうことだ。
例えば、食事である。
食堂への移動ツールとして車椅子を利用するだけでなく、食事中の椅子として何の疑問もなく車椅子を使ってしまうことが多い。
しかし車椅子の座り心地というのは、普通の椅子に比べて極めて悪いものだ。
それは一般的な車椅子の座面が座るという目的のためにできているわけではないことが原因だ。
車椅子の座面は「座る」ことより、「折りたためる」ことに重きを置いて作られているから、どうしても座位時に「たわんで」しまう素材で作られている。つまりそういう状態は、長時間座位には本来適していないし、ということは食事の際に座るツールとしても適していないといえるのである。
この座り心地の悪さを補うために、様々なクッションを工夫して使ったりするのだが、このクッションも使い方によって、背もたれや、フットレストとの位置関係が微妙にずれて、介護者に気付かないところで利用者の「座り心地」をますます悪くする、という例も多々見られる。
食事などの際には、車椅子から、普通の椅子に移動するという習慣を作っている場合も多いと思われるが、個別のアセスメントの中に、是非、座り心地を考慮した座位ツールの考察を入れてもらいたい。
ただ勘違いしないでほしいのは、あくまで個別にこれらの判断がされるべきで、車椅子座位のまま食事を摂る事が一律駄目だと言っているわけではない。我々の施設でも、椅子への移乗介助を勧めても、様々な理由で、あるいはその時々の気分で、それを拒む方がいるのも事実である。
大切な点は、その方の安楽な姿勢というものに、常に心配りがされているか。ケアの視点にそのことが取り入れられているか、ということなのであり、過程を見ないで結果だけを見ても、どうしようもない。
それと、車椅子に対して考えなければならないもうひとつの重要な問題がある。
それはブレーキの問題だ。
ごく当たり前のことであるが、車椅子は移動ツールであるがゆえに、車輪がついている。
しかし車椅子から立ち上がったり、あるいは車椅子からベッド等、他の場所へ移乗する際、この車輪がロックしていないと転倒の大きな危険因子になる。
つまり移乗の際などは、ブレーキがかかっていないと危険きわまりないのである。
これは何も下肢筋力に障害がある方のみならず、例えば我々が、何気なく車椅子に座って、そこからブレーキがかかっていないことを忘れて車椅子の肘掛部分をつかんで立ち上がろうとしたとき、車椅子自体が動いてしまえば、よろけてしまうことでも実感できる。
ブレーキのかけ忘れた状態で、立ち上がったり、移乗したりすることは誰にとっても非常に危険なのだ。
が、しかし、ブレーキのかけ忘れ、というものは完全に防ぐことはできない。
何も認知症の方のみならず、見当識や記憶に障害がない方でも、「うっかり」することはあるわけで、とりわけ高齢者においては、ブレーキかけ忘れによるインシデントは日常茶飯事である。
じつは介護用品の中には、このブレーキのかけ忘れに対して座面からお尻が浮いたら車輪のスポーク部分をロックする形でブレーキが自然にかかるものが販売されているのだが、値段がはる。
毎年、全国で、ブレーキかけ忘れによる転倒事故が何件あるかわからないが、決して少なくないはずである。