死の知らせ
「父が亡くなったのですが、母には内緒にしておいてください。ショックを受けるのも可哀想ですし・・・。」
高齢者施設に勤めている方々なら誰しも、こういう「お願い」をされた経験が1度や2度はあるだろう。
皆さんは、こういう場合、どのように対応しているのだろうか。
確かに、利用者の中には、連れ合いの「死」の意味さえも理解ができない重度の認知症の方もいるだろうし、体調がすぐれず、精神的ショックが心配される状態の方もいるであろう。
「お気持ちはわかりますが、もう一度よく考えてください。きちんと事実を伝える方が良い」と思う。
長年、夫婦として連れ添ったパートナーを亡くすショックは計り知れないが、それにも増して、一番自分の身近で大切な人が亡くなられた、という重大な事実を知らされないショックの方が大きいと思うからだ。
そして、どのような状態の方でも、それを知ることは必要なことであり、誰にもそれを隠す権利はないと思っている。ご家族とともに悲しみを共有し、できればご一緒に故人をお見送りするということは大切なことではないだろうか。認知症の方でも、精神的に落ち込むことが多い方でも、重度の身体障害を抱える方でも、その権利はあるのだ。
一般社会では、どうだろう。おそらく連れ合いの「死」を知らせないということはあり得ない。なぜ入院されている方や施設入所者に限って、これを「あたりまえ」とする風潮があるのか不思議なところである。
「じゃあ、なにかあったら施設が責任をとってくれますか?」と、家族から話しがある。
人間の感情の揺れや、起こる事態は予測がつかない。しかし、それでも「人として、やはりお連れ合いなどの死を知ることは必要ではないでしょうか?」。
正しくはないのかもしれない。しかしこれは「知らない方が良かった」という問題ではないと思う。